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たか子クリニック院長久保田たか子のコラム
「女医」

10年ほど前から、「女医」と言う職業が、脚光を浴びるようになりました。
「昭和の時代」に医師になった私としては、当初違和感を覚え、反発したものです。

私が医師になり、形成外科を選択した当初、女性の患者さんから「こんなお嬢ちゃまが手術室に入って、メスを持つの?」と言われました。
それ以来、私は「すみません、私は女ですけれど、一生懸命、男の先生に負けないほど働きますから、働かせて下さい。私、ここに居させてもらって良いですか?」と言う気持ちを常に持っていました。
事実、身を粉にして働きました。同期の男の先生より、少しでも多く仕事をする事で、男社会の中で働く事を許してもらおうと思っていました。
結婚して一ヶ月後に単身赴任を希望したのも、そんな気持ちからのことでした。
幸か不幸か、研修医2年目に結婚した主人は「仕事をしたいのであれば、応援はするけれど、『女だから』とか、『結婚しているから』とか、言い訳をしたら、仕事は辞めなさい」と言う考え方でしたので、制限なく仕事が出来ました。

形成外科専門医になり、一段落ついて、ふっと「もう仕事を辞めようかな」と思った時に、乳房再建の患者さんから「女の先生がいてくれて良かったわ」と言って頂いた時は、本当に嬉しかったです。
形成外科を選択して初めて「私はここに居ても良いのだ」と思いました。

やっと「形成外科という職場」に「自分の居場所」を見つけた私は、それまで以上に仕事、ことに乳房再建に夢中になりました。
そして、その思いがことさら強くなった時、「もっと患者さんの気持ちを分かるために、自分も乳がんになりたい」とさえ、思い込みました。

しかし、ある時「私の思いは、乳がんの患者さんに対して非常に失礼な事だ」と気付いて、自己嫌悪に陥り、「自分は乳房再建をする資格のない医者だ」と、徐々に乳房再建から足が遠のいてゆきました。
それから数年間、いつもどこかに忘れ物をしてきたような思いが拭えないまま過ごした後、再びご縁があり、何年か前から大学病院で乳房再建のお手伝いをしています。

以前、私が思い悩んでも叶わなかった、痛みや悩みを分かち合うことは、自分が乳がんにならなくても出来るということがわかり、現在、あの時の私の思いは、再建を通じて知り合った患者さんから、乳房再建希望の患者さんに、直接ご自身の体験を話して頂く機会を作る事で、補って頂いています。
これは、女医ゆえに悩み、出来た事の一つです。

また、乳房再建から遠ざかって始めた美容皮膚科では、自分が受けた治療の感想を患者さんと分かち合え、共感出来ます。
これこそ、女医だから出来る事だと思います。
とは言え、患者さんによって、相性が合うのは男性の医師だったり、女医だったり、異なります。
女性に限らず、自分で相性の合う医師に巡り会う努力をする事が大切でしょう。
女医に求められているのは「女性の視点、感覚を医療と連携させる事」だと思います。
例えば「乳がんの患者さんが術後に着用する下着を、如何に自然なものにするか」とか、「傷を自然に隠す方法」などの工夫です。
病気だから、手術したから、仕方ない。治療の上では「仕方ないこと」が沢山有ります。
この「仕方ない」を少しでも減らす事、ここに女性ならではのアイディアを入れてゆくことが、女医や女性の看護師に求められていると思います。
私は最近、医学生の前でよく「『女医の時代』はもう終わった。これからは『女医』と言う事があまり重要ではなくなるよ。これからは『医者として、人間としてどうか』ということが問われる時代だよ」と話します。
今や女医の数が増えて、女医は珍しい存在ではなくなり、「女医」であるだけでは意味を持たない時代に突入しました。
まず、「医師として、何が出来るか」が問われる。
次に、その中で「女性としての感性を活かす事」が求められると思います。
日々の生活の中で感じた事、経験した事、悲しかった事、辛かった事、楽しかった事、嬉しかった事。それら全てが「自分の糧」となり、自分を育ててくれ、ひいては医師としての自分のスタンスにも影響を与えてくれると思います。
久保田たか子のコラム No.012「女医」
2007.3.3
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